double standard~別館~

はてなダイアリー「double standard」の別館です。ファンフィクションを載せていきます。

『オーズ』その後の物語 ver.アンク

『オーズ』の物語は言ってしまえばアンクがほだされてくれたから丸く収まったわけで(それにいたるまでの映司くんと比奈ちゃんの努力はもちろん込みで)、じゃあアンクが草加雅人並に言うこと聞かなかったらどうなったんだろう、という妄想。
※真木博士は倒したという前提で

アンクのみ生き残った場合

というのはやんわりとした言い方で、つまりはアンクが映司を倒した場合。


「映司くん!アンク!」
比奈が駆けつける。映司がうつぶせで地面に倒れており、比奈に背を向ける形でアンクが右腕をみつめている。
アンクの右腕は赤く染まっている。
「……」
振り向くアンク。愕然とする比奈。
「映司くん……」
うつぶせの映司はぴくりとも動かない。比奈はアンクを突き飛ばして映司を抱き起こす。息をしていない映司。
「映司くん……お願い、起きて……起きて!」
涙を流す比奈。事態を理解し、静かに泣く。
「無駄だ。そいつはもう……」
きっとアンクをにらみつける比奈。
「アンク!ひどい……よくも!……どうしてこんなこと……どうして……どうして……」
「言っただろう。俺が欲しいのは命……そのためには邪魔なものはすべて潰す!そうだ!それが映司でも……お前でも!」
アンクと比奈の視線が交錯する。
「……わたしのことも……?」
「…………」
目をそらすアンク。
「……なにも出来ないお前など、手をかけてなんの意味がある」
「お兄ちゃんのことも、返してくれないんでしょ」
「…………」
そのまま背を向けて立ち去っていくアンク。比奈はその後ろ姿をにらみつけていたが、ふと緊張が途切れ、泣き顔になる。
抱きかかえた映司の顔に頬を寄せ、比奈は静かに泣く。後藤や伊達がかけつけてくるときには、もう、アンクの姿はない――

「そうだ。俺が欲しいのは命。手に入れた……やっと。やっとだ!」
背中から羽を生み出し、空に飛び上がるアンク。
「これで俺は完全だ!見ろこの空を!地上を!これがすべて俺のモンだー!!!」
ふと右腕を見る。赤い。フラッシュバックする映司の顔。比奈の顔。
ふりはらうように羽を宙に打ち付け、アンクは飛び去っていく……

数年後(数百年後でも可)≫

何年経っても変わらない、東京の雑踏。アクセサリーを買う女。立ち食いするサラリーマン。ナンパする男たち。小競り合いまである。
その欲望の渦を屋根の上から見下ろし、一人の金髪の男がアイスバーをかじっている。
男はアンク。姿形は変わっていない。泉信吾の体を使っている。
「変わらない……どいつもこいつも」
喧嘩している男たち。暴力を楽しんでいる。
「コイツが美味いのもな」
浮かない顔。気だるげな姿勢。食べ終わったアイスの棒を投げ捨てる。
(……なぜだ……)
脳裏によみがえるさまざまな景色。どれも絶景で、美しい。が、その風景の中に立っているアンクは暗い顔をしている。
(あれから俺はさまざまなところへ行った。だが俺を満足させるものはなにもなかった。匂いも、空の色も、暑さも、寒さも手に入れたのに。俺は――アイツを倒してまで手に入れたと言うのに――)
フラッシュバックする映司が倒れる瞬間。とびちる赤の色だけ鮮やかによみがえる。
「クソッ」
吐き捨てたその時、下界ではげしい爆発音が。わきおこる悲鳴。くずれるビル。
「なんだ!?」
アンクの目が異変を捉える。不気味な人外の姿が多数、逃げ惑う人間をおそっている。
「ヤミー!?……いや、違う。なんだアレは……?」
女の子がおそわれる。どこか比奈に似ている。アンクはとっさに飛び降りると、人外を殴り倒す。
「キャーッ」
「さっさと逃げろ!」
人外を倒してから、はじめてそれを自分がしたと気付いたように、右腕を眺める。
「なぜ俺がこんなことを……」
しかし煙の中から人外は次々とあらわれる。「チッ」アンクは激しい動きで仕留めていく。
脳裏によみがえる、男の声。
仮面ライダーは助け合いでしょ』
そしてもう一声。
『できることをしないなら後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ!』
とうとう目に見えていたすべての人外を倒し終わる。しかしその正体はわからない。
肩で息をして呼吸を整えていると、さきほど助けた女の子が親といっしょに近づいてきた。
「ありがとうございます!助けていただいて――あの、あなたは――?」
アンクはそれを無視して立ち去ろうとする。が、ふと気が変わったように足を止める。
また思い出が蘇る。助けた相手を抱き起こす映司。ほほえみかける映司。そのほほえみ。
誰かを守るときだけ、激昂したり、笑ったり、喜んだりしていた映司――その表情はまさに満足を示していた。
「俺は――」
女の子と目が合う。見詰め合う二人。アンクはしゃがみ込んで、その小さい頭に手を置いた。
「良かったな」
それだけ言うと、その場から立ち去る。
雑踏の中に戻りながら、アンクの足取りはさっきまでのとは違ってしっかりしている。
(なにをしているんだ?俺は。人助け?馬鹿な。それよりもさっきのアイツらはなんなんだ。グリードは関係していないようだったが……)
立ち止まり、少し迷ってから、つばさを出して空に飛び上がる。大きくはばたきながらアンクは独り言を続けた。
「……ふん。どうせ暇だ」
しばらく飛び回っていると、またさわぎの声がきこえてきた。またしても人外たちだ。さきほどの生き残りのようである。アンクは急降下するとさわぎの真っ只中に降り立った。
無言で人外どもを二、三匹たたきのめす。
「なんだ貴様は!」
どうやらボスらしい一匹が言葉を発する。アンクはそちらを見やってにやりと笑った。
「『馬鹿の真似』だ」
「なんだと?」
「わからなくていい。こっちの話だ」
ボスが身構える。アンクは拳をにぎりしめ、飛び掛って行った。
「馬鹿の真似なら……俺も馬鹿になるのかもな!」

……その後、新しい仮面ライダーに出会ってもいいし、一人で戦い続けてもいい。途中、泉比奈に再会してもいいし、しなくてもいい。
アンクは心の空白を埋めるように、記憶にある火野映司の行動を真似て行くのだった……

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