double standard~別館~

はてなダイアリー「double standard」の別館です。ファンフィクションを載せていきます。

『オーズ』その後の物語 ver.映司

ver.アンクはこちら

映司のみ生き残った場合

というわけで映司くんが容赦なくアンクを倒してしまった場合。


「映司くん!アンク!」
比奈が駆けつける。アンクがうつぶせで地面に倒れており、比奈に背を向ける形で映司が息も荒く立ち尽くしている。
地面には赤いメダルの破片がちらばっている。
「……映司くん……それって」
「比奈ちゃん、俺、やったよ。アンクを、倒した」
「映司くんが、アンクを……」
比奈は映司の横をすりぬけ、おそるおそるアンクの体を――いや、泉信吾の体を抱き起こす。
「う……」
「お兄ちゃん!?」
「比奈か……俺は大丈夫」
ふるえながら比奈の頬に手をやり、
「彼はもういない。消えたよ。わかるんだ」
「お兄ちゃん。彼……って」
「映司くん。君は――間違っていない」
それだけ言うと泉信吾は意識を失う。比奈は慌てて呼吸を確認するが、規則正しいのでほっとする。比奈はそっと信吾を横にすると、あらためて震える手でメダルの破片をかき集め始める。
「アンク……!」
ぎゅっと目をつむり叫ぶ比奈。そんな比奈を呆然としたように映司は見下ろしている。
「メダルはバラバラだ。アイツはもう生き返らない。俺がやったんだ」
「映司くん」
ふらっと倒れ込む映司。それを比奈はあやうく抱きとめる。
「映司くん!映司くんは悪くない!悪くないよ!映司くんはなにも間違ったことしてない!」
しかし映司はもう聞いていないように、目を閉じて気を失う。そんな映司をだきしめながら、まるで逆にすがるように、比奈は泣き続けている。「アンク……!」後藤や伊達がかけつけてくるまで、その光景は変わらない。

≪数日後≫

クスクシエの店内。知世子がはりきってカウンターに料理を並べている。客席は埋まっていて、知世子ひとりでは手に余っている。
そこへ階段を降りて映司がやってくる。
「手伝いますよ知世子さん」
「映司くん。いーの、映司くんは。もっと休んでて」
「いえ、なにもしてない方が――このお皿を持っていけばいいんですね」
さっさと自分から動き出して仕事をはじめる映司。知世子は困った顔でそれを見送っている。
と、ドアが開いて、比奈が顔を出した。
「こんにちは知世子さん」
「あら比奈ちゃん。映司くんなら昨日からお店に出てるわよ。思ったより体の方は元気みたい」
「そうですか……。鴻上さんのところの病院でも、異常はないって言ってましたけど」
「まあ荷物はこっちにあるし、うちはいいのよ、本当にいつまでもいてくれて。でも、辛いかもしれないわね、あの部屋だと」
「…………」
比奈の視線の先で映司は忙しく働いている。いつもの快活そうな笑顔。変わらないように見えるが。
ふっと一瞬だけその顔から表情が消えた。
ガシャン!
「あっ、映司くん!」
知世子がさっと飛ぶように近づく。映司はびっくりした顔で、落とした皿とそれで汚れた自分の服を見下ろして呆然としている。
「大丈夫。これはわたしが片付けておくから。服、染みになっちゃうわ」
「え?あ、ああ……」
どこかぼんやりした顔の映司。そんな映司を見て、比奈は言いようもない不安を覚えるのだった。

そしてその翌日――
簡単な置手紙だけを残して、映司は姿を消したのだった。

≪どこかの砂漠≫

ダダダダッ
タンッタンッ
銃声が響き渡る。
夜である。テントの中、ランタンの小さな明りの下でターバンをかぶった男たちが真剣な眼差しで作戦会議をしている。緊迫した空気。
「手榴弾をなげつければ――」
「ダメだ!人質まで殺す気か!」

「だがこのままでは全滅させられるぞ!」

男たちは武装している。部族同士の争いだろうか。負傷している者もいる。

身体に包帯を巻いた一人の一番年かさの男が、その様子を静かなまなざしで眺めている。

「くそっ、どうしたらいいんだ!?」
その砂漠の民の輪の中に、東洋人が一人足を踏み入れる。

映司である。

「俺に行かせてください」

「貴様!誰だ?」
「何日か前から顔を出している日本人だな!?なんの用だ!」
「俺は向こうに顔を知られていない。外国のジャーナリストだって言います。通してくれるはずです」
「馬鹿な……」

男たちは相手にせず吐き捨てる。映司は一歩も引かないが、その顔に決意の色はない。

寝ていた年かさの男が口を開く。

「日本人。みなの言うとおりだ。お前には関係ない」

「俺は――」

「守るべきもののない男に戦いを託すわけにはいかないのだ」

映司がその言葉を呑み込む前に、ほかの男たちが立ち上がる。

「出て行け!お前には関係のない話だ!」
ボロクソに言われて、映司は輪を追い出されてしまう。
テントの外でしばらく立ち尽くしていたが、結局、諦めて背を向けて歩き出す。
「関係ない、か……」
しかしその目は暗く輝いている。

 

夜。映司はこっそりと砂漠に足を踏み入れる。
そのまま静かに走り去る。
すべてが寝静まった夜の砂漠。闇に隠れて映司は走る。
「助けないと……俺が……」
首尾よく映司は敵地に侵入する。
しっかりと辺りを観察し、子どもの声がするテントを見つける。裏からこっそりと顔を出すと、手足をしばられた子どもを見つける。
「しっ!大丈夫、助けにきたんだ」
映司は子どもをかかえてそっと外に出る。しかし、砂漠に逃げ込もうとしたところをとうとう見つかってしまう。
「逃げるんだ!」
子どもをかかえ映司は走る。その脳裏に、昔無力に死なせてしまった女の子の顔が浮かぶ。
「俺が……」
砂漠の砂は重い。映司は足をとられて倒れ込む。雨のように降り注ぐ銃撃。
映司は咄嗟に子どもを手放し、違う方向に転がり始める。
「逃げるんだ!」
子どもは泣きながら走り出す。銃撃は体の大きな映司しか見つけられないようで、子どもは見逃してしまう。
「それでいいんだ……」
ぴしり!弾がひとつ肩をかする。「!」顔をしかめる映司。だがすぐにほほえみに変わる。
「いいんだ……」
さらに銃撃。闇の中で、いくつも鈍い音がする。
しばらくして、音が止んだ。

仕留めたのかどうか、たしかめるために動き出した男たちの声が辺りにうごめく。
映司はそんな物音の中、ひとりしずかに仰向けに砂の上で転がっている。空には満天の星。
「あの子、逃げられたかな……」
つぶやくと、ゆっくりと目を閉じる。そして呼吸が――止まる。
銃を構えた男たちが、ゆっくりと近づいてくるが、顔に手を当て、首を振る。

 

数日後、日本の新聞にひとつの記事が出る。
日本人青年、砂漠の扮装地帯で子どもを助け、命を落とす――と。

 (おわり)

 

なんか映司くんの方だけすげえ哀しくなった……
うーん、でも、本編で達成できなかったら、映司くんは結局救われないままなんだと思うんですよね。そうでなかったらなんの本編だ。そりゃそうだ。
対するアンクはまだまだ立ち直る機会はあるんじゃないかと。まあわたしの解釈がこうだってだけなんですけどね。